コラム

言語聴覚の視点で考える噛む力の育て方 — 発音と食事の関係

「うちの子、いつまでも柔らかいものしか食べない」「発音がはっきりしなくて、ほかの人に聞き返される」——一見別々に見えるこの2つの悩み、実は同じ「口」という道具の話です。噛む力が育つ道のりと、話す力との関係を、わかっていることとわかっていないことに分けて整理してみましょう。

本記事は、Smart Treats編集部が公的機関の資料や研究論文をもとにまとめたものです。専門家への取材や監修は行っていません。気になる症状や個別の相談は、かかりつけの医師・歯科医師・管理栄養士などにご相談ください。

食べる口と話す口は、同じ道具を使っている

食べ物を噛む動き(咀嚼)と、ことばの音をつくる動き(構音)は、どちらも舌・唇・頬・顎を使います。食べ物を歯の上にのせ直す舌の動き、こぼさないように閉じる唇、リズムよく上下する顎。どれも話すときに欠かせない部品です。

咀嚼の動きは、乳児期から学童期にかけて、食べ物の形態や経験とともに段階的に発達していくことが研究で示されています(Gisel, 1991)。いろいろな食感を経験しながら口を動かすことは、口全体の使い方を育てる土台になります。

ただし、注意したい点もあります。「噛む練習をすれば発音がよくなる」と単純には言えません。ことばの音は、音ごとに舌の位置や息の出し方を細かく使い分けて覚えていくもので、発音のつまずきには聞こえ方や口の形、ことばの発達などさまざまな背景があります。噛む力を育てることは口の健やかな育ちを支えますが、発音が気になる場合は、家庭の工夫とは別に専門家の評価を受けることが大切です。

噛む力が育ちにくいときのサイン

  • 硬いものを嫌がり、柔らかいものばかり食べたがる
  • あまり噛まずに丸飲みする
  • 食事に時間がかかる、噛み切れずに口から出す
  • 口から食べ物がこぼれやすい(唇が閉じにくい)
  • ふだんから口が開いていることが多い、口呼吸が目立つ
  • 年齢のわりに発音が聞き取りにくい

ひとつ当てはまるだけで心配する必要はありません。いくつか重なる、長く続いている、食事で本人が困っている——そんなときは、後半で紹介する相談先を頼ってみてください。

年齢別:噛む力とことばの育ち

離乳期の口の動きは、厚生労働省の「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」に沿って整理すると、次のような流れになります。時期は目安で、個人差があります。

生後5〜6か月ごろ:なめらかにすりつぶした状態のものを、唇を閉じて飲み込む練習。

生後7〜8か月ごろ:舌でつぶせるかたさのものを、舌と上あごでつぶして食べる(もぐもぐ期)。喃語がさかんになる時期でもあります。

生後9〜11か月ごろ:歯ぐきでつぶせるかたさのものを、歯ぐきでつぶして食べる(かみかみ期)。手づかみ食べが始まり、意味のあることばが出始める子もいます。

生後12〜18か月ごろ:歯ぐきで噛めるかたさのものへ(離乳の完了期)。奥歯が生え始めるころで、語彙が少しずつ増えていきます。

3歳ごろ:乳歯が生えそろい、大人に近い噛み方に近づいていきます。会話でのやりとりが増えます。

4〜6歳ごろ:ほとんどの音が言えるようになっていく時期です。サ行・ザ行・ラ行などは比較的あとから整う音で、この時期に練習中の子も少なくありません。

離乳期から幼児食への食感の移り変わりは食感が子供の咀嚼力を育てる、乳歯の生える時期とおやつの関係は乳歯期のおやつ完全ガイドでもくわしく紹介しています。

おやつで噛む経験を増やす4つのステップ

いきなり硬いものに挑戦するのではなく、今食べられるかたさから半歩ずつ進めるのがコツです。年齢は目安なので、歯の生え方や本人の様子に合わせて調整してください。

ステップ1(1〜2歳ごろ):バナナ、蒸しパン、やわらかく煮たさつまいも——やわらかいけれど、口を動かして食べるもの。

ステップ2(2〜3歳ごろ):薄切りにして電子レンジで少し加熱したりんご、小さめのおにぎり、蒸し野菜スティック——ある程度噛む必要があるもの。乳歯が生えそろわない時期は、りんごなどかたい果物は加熱してやわらかくすると安心です。

ステップ3(4〜5歳ごろ):子ども向けのせんべい、きゅうりスティック、干し芋——しっかり噛むもの。干し芋(さつまいもの蒸し切干)は噛みごたえがあり、食物繊維も比較的多く含む食品です(日本食品標準成分表(八訂)増補2023年)。

ステップ4(6歳ごろ〜):フランスパン、食べる小魚、ナッツ類——顎をしっかり使うもの。ナッツ類は消費者庁が5歳以下の子どもに食べさせないよう注意を呼びかけているため、6歳以降に、よく噛むよう声をかけながら取り入れましょう。

噛みごたえのあるおやつのレシピはもぐもぐオーツバーやパリパリ野菜チップスもどうぞ。

食感別・おやつで使う口の動き

食感おやつの例主に使う口の動き
パリパリ・サクサクせんべい、加熱したりんごチップ前歯でかじり取る、顎を上下に動かす
もちもち小さく丸めた白玉、おにぎり舌で食べ物をまとめる、唇を閉じて噛む
カリカリ・ポリポリきゅうりスティック、蒸し野菜スティック奥歯ですりつぶす、顎を左右にも動かす
ねっちり干し芋、ドライフルーツ何度も噛む、舌で左右に送る

白玉やもちは、のどに詰まりやすい食品です。小さな子には小さく切り、必ず座って、大人が見ている前で食べるようにしましょう。

楽しく口を動かす遊び

「もぐもぐカウント」:ひと口ごとに一緒に「もぐもぐ」と数える遊び。厚生労働省は、ひと口30回噛むことを目標にした「噛ミング30(カミングサンマル)」を食育の取り組みとして提案しています。小さな子は回数にこだわらず、10回、20回と楽しく数えられれば十分です。

「ふーふーチャレンジ」:シャボン玉を吹く、ストローで紙玉を飛ばす、吹き戻しを吹く——唇をすぼめて息を出す遊びは、唇を閉じる動きの練習にもなります。

「へんがお体操」:口を大きく開ける、舌を出す、頬をふくらませる。鏡の前で親子で一緒にやると盛り上がります。「あ・い・う・べ」と大きく口を動かす「あいうべ体操」も、口の周りを動かす体操として紹介されることがあります。

「食感たんてい」:「これはどんな音?」「かたい?やわらかい?」と、食べながら食感をことばにするゲーム。擬音語を探す遊びは、ことばの楽しさにもつながります。

安全に噛む経験を増やすために

噛む練習とあわせて、窒息の予防も欠かせません。消費者庁は、かたい豆・ナッツ類を5歳以下の子どもに食べさせないこと、ミニトマトやぶどうなど丸くてつるっとした食品は4等分にすることなどを呼びかけています。食べるときは座って、口に入れたまま遊んだり走ったりしないこと、大人が見守ることを習慣にしましょう。年齢別の形やサイズの目安は幼児の窒息予防の記事にまとめています。

相談のタイミングと相談先

次のような様子が続くときは、一度相談してみましょう。

  • 3歳を過ぎても丸飲みが多い、年齢に合ったかたさのものを受けつけない
  • 食事の途中で疲れてしまい、食べるのをやめることが多い
  • いつも口が開いている、口呼吸が目立つ
  • 発音が聞き取りにくく、本人が言い直しを嫌がったり、話すのを避けたりしている
  • 年長(5〜6歳)になっても、発音の誤りが多く残っている

入り口になるのは、1歳6か月児健診・3歳児健診などの乳幼児健診、自治体の保健センター、かかりつけの小児科や小児歯科です。歯科では2018年度から、食べる・話すなどの口の機能の育ちが十分でない状態を「口腔機能発達不全症」として評価し、管理する仕組みが設けられています(日本歯科医学会)。発音やことばについては、医療機関や療育機関の言語聴覚士につないでもらえることがあります。口の機能とおやつの関係をまとめて知りたい方は歯×口腔機能×発達のおやつ統合ハブもどうぞ。

噛む力は一日で育つものではありません。毎日の食事とおやつの中で、楽しく口を動かす機会を少しずつ積み重ねていきましょう。

よくある質問

噛む力が弱い気がします。言語聴覚士に相談すべきですか?

噛む力の弱さと発音の聞き取りにくさが同時に見られる場合は、専門家に相談してみる価値があります。まずは乳幼児健診や自治体の保健センター、かかりつけの小児科や小児歯科で相談しましょう。必要に応じて、医療機関や療育機関の言語聴覚士につないでもらえることがあります。

ガムは噛む練習に使えますか?

飲み込まずに噛んで、自分で出せるようになってからであれば、噛む経験のひとつとして取り入れられます。目安は4〜5歳ごろ以降で、最初は大人と一緒に練習しましょう。選ぶときは、むし歯の原因になりにくい甘味料(キシリトールなど)を使ったものがおすすめです。

離乳食の段階を長く続けると、噛む力が育たないのでしょうか?

やわらかいものだけが長く続くと、口を動かす経験が少なくなる可能性はあります。厚生労働省の授乳・離乳の支援ガイドでは、月齢に合わせて、舌でつぶせるかたさ、歯ぐきでつぶせるかたさ、歯ぐきで噛めるかたさへと段階的に進める目安が示されています。お子さんの様子を見ながら、少しずつ食感の幅を広げていきましょう。

発音がはっきりしないのは、いつまで様子を見ていいですか?

サ行・ザ行・ラ行などは比較的あとから整う音で、4歳ごろに練習中の子も少なくありません。年長(5〜6歳)になっても誤りが多く残る場合や、本人が話しにくさを気にしている場合は、年齢にかかわらず一度相談してみましょう。乳幼児健診や保健センター、かかりつけ医が相談の入り口になります。

硬い食べ物を嫌がる子どもにはどう対応すればいいですか?

無理に硬いものを食べさせるのは逆効果になりがちです。今食べられるかたさを確認し、そこから半歩ずつかたさを上げていきましょう。たとえば、蒸しパンが食べられるならトースト、トーストが食べられるならフランスパンの柔らかい部分へ、と段階的に進めます。かたい豆やナッツ類は5歳以下には与えないなど、窒息の予防も忘れずに。

噛むことと歯並びには関係がありますか?

よく噛むことは顎や口の周りの筋肉の育ちに関わると考えられており、歯並びとの関係も指摘されています。ただし、歯並びには遺伝や指しゃぶり、口呼吸などさまざまな要因が関わります。気になる場合は、定期健診の際に小児歯科で相談してみましょう。

タイプ別おやつTIPS

Smart Treatsのタイプ診断の結果に合わせた、噛む経験を増やすおやつのワンポイントです。

🏃 アクティブタイプのお子さん

「もぐもぐカウント」を家族で数えくらべすると夢中になりやすいタイプ。外遊びのあとの補食に、蒸し野菜スティックやおにぎりなど噛みごたえのあるものを選べば、エネルギー補給と噛む経験を一度に。早食いになりやすいので、座って食べる約束もセットで。

🎨 クリエイティブタイプのお子さん

「食感たんてい」で、パリパリ・もちもち・カリカリを擬音で表現してみましょう。食べたおやつの食感と音を絵日記にまとめて「食感図鑑」を作れば、噛む楽しさとことば遊びが自然につながります。

😌 リラックスタイプのお子さん

ゆっくりペースを生かして、干し芋など「じっくり噛む」おやつがぴったり(小さく切って出しましょう)。へんがお体操は恥ずかしがることもあるので、親子で鏡の前に並んで一緒にやると安心して取り組めます。

参考文献・参考資料

  1. Gisel EG. Dysphagia. 1991. doi:10.1007/bf02503459 — 子どもの咀嚼機能の発達に関する研究。
  2. 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」— 離乳の進め方と食べ方の目安の参照元。mhlw.go.jp
  3. 厚生労働省「歯科保健と食育の在り方に関する検討会報告書」(2009年)— 「噛ミング30(カミングサンマル)」の提案。
  4. 消費者庁「食品による子どもの窒息・誤嚥(ごえん)事故に注意!」(2021年1月)— かたい豆・ナッツ類、ミニトマト・ぶどうなどの注意点。
  5. 日本歯科医学会「口腔機能発達不全症に関する基本的な考え方」— 子どもの口腔機能の評価と管理の参照元。jads.jp
  6. 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」— 食品の栄養成分の参照元。

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