本記事は、Smart Treats編集部が公的機関の資料や研究論文をもとにまとめたものです。専門家への取材や監修は行っていません。気になる症状や個別の相談は、かかりつけの医師・歯科医師・管理栄養士などにご相談ください。
「また残した」に疲れてしまったあなたへ
せっかく用意したかぼちゃの蒸しパンを、ひと目見ただけで「いらない」。結局、いつものビスケットとバナナに戻ってしまう——。偏食は、幼児期の保護者の悩みとしてとてもよく挙がるテーマです。毎日のことだからこそ、「育て方が悪いのかな」と自分を責めてしまう方も少なくありません。
でも、子どもが知らない食べ物を警戒するのは、決して珍しいことではありません。大切なのは、「食べさせる」ことをゴールにするのではなく、「この食べ物は知っている、怖くない」と子ども自身が感じられる経験を少しずつ積み重ねること。おやつの時間は、食事よりもプレッシャーが少なく、その練習にぴったりの場面です。
偏食の背景にある「食物ネオフォビア」
新しい食べ物や見慣れない食べ物を避けたがる傾向は「食物ネオフォビア(新奇食物恐怖)」と呼ばれます。Pliner & Hobden(1992)は、この傾向の強さを測る質問紙(尺度)を作成し、新しい食べ物への警戒心には人によって強い・弱いの差がある「特性」としてとらえられることを示しました(Pliner & Hobden, 1992)。
つまり、なかなか新しいものに手を出さない子は、「わがまま」なのではなく、もともと慎重さが強めなタイプなのかもしれません。この傾向は幼児期に目立ちやすく、成長とともに少しずつ和らいでいくことが多いといわれています。「この子は慎重派なんだ」と受け止めるだけで、親の声かけは自然とやわらかくなります。
厚生労働省がまとめた食育の指針「楽しく食べる子どもに」でも、食を楽しむ心や、食べ物に興味を持つ経験を育てることが重視されています。「一口でも食べさせなきゃ」より「食べ物と仲良くなる」という発想が、遠回りのようで近道です。食べず嫌いの考え方全体は食べず嫌い攻略ガイドでも整理しています。
5ステップの全体像
新しい食材を「食べる」までには、実はいくつもの段階があります。いきなりゴールを目指さず、手前の段階を一つずつクリアしていくのが5ステップの考え方です。
- ステップ1「見る」 — 大人が食べている姿を見せるだけ
- ステップ2「におう」 — 子どもの近くに置いて、においに慣れる
- ステップ3「さわる」 — 子どもが自分で手に取ってみる
- ステップ4「口に入れる」 — なめる・かじる。飲み込まなくてOK
- ステップ5「食べる」 — 小さなひとかけらを食べてみる
どのくらいの期間で進むかは、子どもによって大きく違います。数日で進む子もいれば、同じステップに何週間もとどまる子もいます。日数ではなく、子どもの様子を見て「そろそろ次へ」と判断しましょう。「今月はにんじんと仲良くなれたらいいな」くらいの長い目で構えると、大人の焦りも軽くなります。
ステップ1「見る」——大人がおいしそうに食べる姿を
最初は、子どもに新しい食材を「見せる」ことから。ただし「これ食べてみて」ではなく、大人が自分で楽しそうに食べている姿を見せることがポイントです。
- おやつの時間に、大人のお皿にだけ蒸したブロッコリーやかぼちゃをのせて「おいしいね」と食べる
- 新しい食材は、子どもがいつも食べているおやつと同じお皿に少しだけ並べる
- 何日か同じ場面をくり返す。子どもが見ているだけで十分です
避けたいのは「すごくおいしいから食べてみて」という、食べさせようとする声かけ。善意でも、子どもには圧力として伝わりやすいものです。
ステップ2「におう」——においも「知っている」に変える
見慣れてきたら、においに慣れる段階です。
- 大人が食べている新しい食材を、子どもの手の届く近くに置いておく
- 「甘いにおいがするね」と大人が実況する。子どもが「くさい」と言っても叱らず、「そっか、そう感じたんだね」と受け止める
- りんごを煮る、さつまいもを焼くなど、台所から漂う香りも立派な体験になる
ステップ3「さわる」——自分で決める体験を
ここからは子どもが主役。大人の「食べてほしい」という気持ちは、そっと横に置いておきましょう。
- テーブルに新しい食材を少量置き、子どもが自分で手に取れるようにする
- 触ったら「気になったんだね」と中立的に返す。「じゃあ食べてみよう」とは続けない
- つぶす、ちぎる、においをかぐ——どんな関わり方でも「いろいろ試してるね」と認める
- 一緒に洗う、型で抜く、トッピングを並べるなど、おやつ作りのお手伝いもこの段階にぴったり
食べ物に触れる遊びのアイデアは、偏食のクリエイティブキッズを食に夢中にさせる7つの工夫にもたくさん載っています。
ステップ4「口に入れる」——とにかく小さく、出してもOK
いよいよ口に入れる段階です。ここで大切なのは「ごく小さな量」と「飲み込まなくていい」という安心感です。
- 量は「ひとかけらの、さらに小さなかけら」で十分。なめるだけでもOK
- 「食べてみる?」ではなく「ちょっとなめてみる?」と、ハードルを低く誘う
- 口に入れたら「すごいね。出したくなったら、このお皿に出していいよ」と、出す場所(小皿やティッシュ)を最初から用意しておく
- うまくいった日も、いかなかった日も、淡々と終える
ミニトマトやぶどうのような丸くてつるっとした食べ物は、小さな子どもの窒息の原因になりやすいため、4等分にするなど小さく切ってから。生のにんじんやりんごのような硬いものは、幼児期には加熱してやわらかくしましょう。消費者庁などは、かみ砕いて飲み込む力が十分でない5歳以下の子どもには、豆やナッツ類を食べさせないよう呼びかけています。食べるときは必ず座って、大人が見守れる場面で。年齢別の注意点はおやつ事故防止ガイドでもくわしく紹介しています。
ステップ5「食べる」——チャレンジそのものを認める
ここまで来たら、「食べる」は自然な流れの延長です。
- 子どもが自分から手を伸ばしたり、「食べてみようかな」と言ったりしたときがタイミング
- 5mm角くらいの小さなかけらを用意して「どうする?」と選ばせる
- 食べたら、味の感想を求めるより「チャレンジしてくれてうれしい」と挑戦そのものを認める。「もっと食べて」は言わない
- 一度食べられても、それで定着とは限りません。その後も週に何度か食卓やおやつに登場させ、「いつもある食べ物」にしていきましょう
「3つ並行作戦」——複数の食材を少しずつ
1つの食材だけに集中すると、進まない週は親子ともに息が詰まります。そこでおすすめなのが、3種類の食材を、それぞれ違うステップで同時に進める方法です。
- ブロッコリー:ステップ1(見る)
- にんじん:ステップ3(さわる)
- トマト:ステップ5(食べる)
こうしておくと、毎週「どれか一つは前に進んだ」という手応えが感じられ、親の焦りもやわらぎます。好きな食べ物から少しずつ味や形をずらしていく「フードチェイニング」と組み合わせるのもおすすめです。くわしくはフードチェイニング法の解説をどうぞ。
偏食っ子に向く「おやつ選び」のコツ
- なじみのある形から:見た目が初めてだと、それだけで警戒されがちです。いつものパンケーキにかぼちゃを少し混ぜる、いつもの型で抜くなど、「知っている形」に新しい食材をのせましょう
- 好きな食べ物と組み合わせる:大好きなチーズやヨーグルトの隣に、新しい果物を少しだけ。安心できる食べ物が一緒にあると、お皿全体が「怖くない場所」になりやすくなります
- 色は自然なものを:見慣れない色は警戒されやすいもの。素材そのものの色を生かしたおやつから始めましょう
- 量は少なく、おかわり自由に:山盛りはそれだけでプレッシャー。少なめに盛って「足りなかったらまだあるよ」のほうが手が伸びやすくなります
うまくいかないときによくあるパターン
- 期限を決めてしまう:「今週中に食べてほしい」という焦りは、表情や声色から子どもに伝わります。期限は決めず、子どものペースを優先しましょう
- 量が多すぎる:大人にとっての「一口」は、子どもには大きな壁。ステップ4・5では、拍子抜けするくらい小さくて十分です
- 無言の期待:言葉にしなくても、じっと見つめられると子どもは身構えます。新しい食材を出したら、大人は自分のおやつと会話を楽しみましょう
- ごほうびで釣る:「これを食べたらデザートね」は、新しい食材を「がんばって乗り越えるもの」と印象づけてしまいがちです
こんなときは相談を
多くの偏食は成長とともに少しずつ和らいでいきますが、次のような様子があるときは、ひとりで抱え込まずにかかりつけの小児科や地域の保健センター、発達相談の窓口に相談してみてください。
- 体重が増えない、または減ってきた
- 食べられる食品が極端に少なく、どんどん減っている
- 飲み込みにくそう、よくむせる、吐いてしまうことが多い
- 特定の舌ざわりや音、においへの反応がとても強く、食事のたびに強い苦痛がある
感覚の過敏さが関係していそうな場合の関わり方は、発達が気になる子の食育入門やASD傾向の子への新しいおやつの出し方も参考になります。
まとめ — 偏食とのつきあいは「長い目」で
- 知らない食べ物を警戒する「食物ネオフォビア」は、強さに個人差のある特性。わがままと決めつけない
- 見る→におう→さわる→口に入れる→食べるの5ステップで、「知っている食べ物」を少しずつ増やす
- 進むペースは子どもによって違う。日数ではなく、子どもの様子で次へ進む
- 「ごく小さく」「自分で決めさせる」「出してもOK」が合言葉
- 口に入れる段階では、年齢に合った大きさ・かたさにして、座って食べる
- 3つの食材を違うステップで並行すれば、毎週どこかに前進が見つかる
- 体重が増えない、食べられるものが極端に少ないなどの様子があれば、早めに相談を
よくある質問(FAQ)
偏食は「わがまま」や「しつけ不足」のせいですか?
いいえ、そう決めつける必要はありません。知らない食べ物を警戒して避けたがる傾向は「食物ネオフォビア」と呼ばれ、強さには個人差がある性質として研究されてきました(Pliner & Hobden, 1992)。幼児期には多くの子に見られる反応です。叱るより、少しずつ「見たことがある」「知っている」食べ物を増やしていく関わり方が向いています。
新しい食べ物を避け続けると、栄養が足りなくなりませんか?
食べられる食品が限られると、野菜や果物に多いビタミンや食物繊維がとりにくくなることはあります。まずは、いま食べられる食材の中で主食・主菜・副菜がそろうように工夫し、さつまいもやバナナなど受け入れやすい食材をおやつに取り入れましょう。体重が増えない、元気がないなど気になる様子があれば、かかりつけの小児科医に相談してください。
新しいおやつを出したら、見るのも嫌がりました。
よくある反応なので、がっかりしなくて大丈夫です。無理に食べさせようとすると、その食べ物への嫌な印象が残りやすくなります。その日は「食べなくていいよ」と下げて、大人がおいしそうに食べる姿を見せるステップ1からやり直しましょう。お皿に置かれているのを見るだけでも、慣れるための一歩になります。
何歳から5ステップを試せますか?
大人が楽しそうに食べる姿を見せるステップ1は、離乳食が進んだ時期から取り入れられます。触ったり、においをかいだりするステップは、言葉でのやりとりが増えてくる幼児期になると進めやすくなります。年齢よりも、その子が楽しめているかどうかを目安にしてください。口に入れる段階では、年齢に合った大きさ・かたさにすることを忘れずに。
偏食が心配です。サプリメントは使ったほうがいいですか?
自己判断で使う前に、まずは食べられる食材の中で栄養バランスを整えることが基本です。体重の伸びが止まる、食べられるものが極端に少ない、食事のたびに強く嫌がるといった様子があれば、かかりつけの小児科医に相談し、サプリメントが必要かどうかも医師の判断に任せましょう。
5ステップは1つの食材に何日くらいかけますか?
決まった日数はありません。数日で食べられる子もいれば、何か月もかかる子もいます。大切なのは、次のステップに進むかどうかを子どもの様子で決めることです。日数を目標にすると大人の焦りが伝わりやすいので、「今週は触れたらOK」くらいの気持ちで続けましょう。
ペルソナ別おやつTIPS
🏃 アクティブ派のあなたへ
よく動く偏食っ子には、おやつを「ミッション形式」にするのがおすすめです。「今日のミッション:ゆでたにんじんスティックを1本つかめたらクリア!」と遊び感覚にすると、警戒心より挑戦心が前に出やすくなります。外遊びのあとのおなかがすいたタイミングは、新しい食材と出会うチャンス。ただし、食べるときはきちんと座ってから。
🎨 クリエイティブ派のあなたへ
創造力豊かな子には、新しい食材を「作品の材料」として出してみましょう。ブロッコリーの房でスタンプを押す、パプリカを型で抜いてクラッカーに顔を描く。ステップ2〜3の「におう」「さわる」が自然に進み、自分で作ったものなら口に運ぶハードルも下がります。
😊 リラックス派のあなたへ
のんびり屋さんの偏食っ子には、絵本の読み聞かせとセットにしたおやつタイムがおすすめ。食べ物が出てくる絵本を一緒に読んだあと、「絵本に出てきたかぼちゃ、ここにもあるよ」とお皿を見せるだけでOK。食べなくても、その日はステップ1クリアです。穏やかな雰囲気が警戒心を和らげてくれます。
参考文献
- Pliner P, Hobden K. Development of a scale to measure the trait of food neophobia in humans. Appetite. 1992. DOI: 10.1016/0195-6663(92)90014-W — 新しい食べ物への警戒心(食物ネオフォビア)を個人差のある特性として測定する尺度を開発した研究。
- 厚生労働省「楽しく食べる子どもに〜食からはじまる健やかガイド〜」(食を通じた子どもの健全育成のあり方に関する検討会報告書, 2004年) mhlw.go.jp — 食を楽しむ力や食への興味を育てる食育の考え方の参照元。
- 厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」 mhlw.go.jp — 乳幼児期の食べ方の発達と食事の進め方の参照元。