写真を撮ることが、なぜ食育になるの?
子どもがカメラを構えてお皿に向けるとき、小さいけれど大切なことが起きています。手が止まり、目が食べ物に向き、いちごの表面に当たる光、ブロッコリーの緑とにんじんのオレンジのコントラスト、輪切りにしたキウイの放射状の模様に気づく。この「じっくり見る」時間は、食べることをていねいに味わう練習そのものです。
研究でも、食べ物とのこうした関わりが注目されています。幼児を対象にした研究では、果物や野菜にさわったり並べたりする感覚遊びをした子どもは、そうでない子どもより多くの種類の果物や野菜を味見したと報告されています(Coulthard & Sealy, 2017)。また、親と一緒に料理に参加した子どもは、自分で作ったサラダを、参加しなかった子どもより多く食べたという研究もあります(van der Horst et al., 2014)。
フードフォトには、見る・さわる・においをかぐといった感覚の体験、構図を考える工夫、指先を使う細かい作業、そして何より「食べなさい」と言われない場面で食べ物と楽しく関わる時間が、ひとつにつまっています。食事のたびに緊張してしまう子にとって、写真は食べ物となかよくなるための、プレッシャーのない入り口になります。
日本の食文化には、見た目を大切にする考え方が深く根づいています。お弁当や給食、季節の行事食。子どもたちは毎日の食卓で、知らず知らずのうちに「盛り付けの美しさ」にふれています。2005年に食育基本法が制定されて以来、家庭や学校で食への関心を育てる取り組みが続いていますが、フードフォトはその入り口としてもぴったりの遊びです。
用意するもの — ほとんど家にあるもので大丈夫
フードフォトのいいところは、気軽に始められること。特別な機材はいりません。スマホかタブレット、窓からの光、そして冷蔵庫にある食べ物があれば十分です。
カメラ
3〜7歳くらいの小さい子には、画面が大きくて構図がわかりやすいタブレットがおすすめ。8歳以上ならスマホでも上手に撮れます。使っていない古いデジタルカメラがあれば、通知やアプリに気をとられないので、それもいい選択です。親のスマホを貸すときは、撮影以外の操作ができないように、カメラだけを開いた状態で渡すと安心です。
光
写真の仕上がりをいちばん左右するのは光。そしてそれは無料です。食べ物を窓の近くに置き、直射日光ではなく、レースのカーテン越しのようなやわらかい光で撮りましょう。北向きの窓は一日を通して光が安定しています。天井の照明だけで撮ると色がくすみやすいので、昼間の明るい時間がおすすめです。
背景
白い画用紙、木のまな板、きれいなふきん、シンプルな白いお皿。これだけで立派な「スタジオ」になります。背景は食べ物を引き立てる脇役。和食の盛り付けでも、器は料理の美しさを引き出すためのものと考えられています。
小物(なくてもOK、あると楽しい)
ハーブをひと枝、ベリーを数粒ちらす、チェックのナプキン、木のスプーン。ただし入れすぎは禁物です。日本の美意識には、余白(間)を生かす考え方があります。「何も置かないところ」をあえて残すことを覚えるのも、写真を通して身につく大切な感覚です。
年齢別・フードフォトのプロジェクト
成長に合わせて、少しずつステップアップできるように組み立てました。どの年齢でも、うまく撮ることより楽しむことを優先してください。
3〜5歳:色さがし探検隊
やること:赤いいちご、オレンジのにんじん、黄色いバナナ、緑のきゅうり、紫のぶどうを、色の順番に並べて「にじのお皿」を作ります。並べるのは子ども、撮るのは大人。タブレットのシャッターボタンを子どもが押すだけでも大喜びです。小さな子が並べたあとに食べるときは、ぶどうは4等分にするなど、年齢に合った大きさにしておきましょう。
育つ力:色の名前、食べ物の名前、仲間分け。色を見分けるために一つひとつをじっくり見るので、食べなくても自然と食べ物に慣れていきます。
日本の食文化とのつながり:和食の「五色(赤・黄・緑・白・黒)」の考え方そのもの。いろいろな色がそろうと、目にも楽しく、栄養のバランスもとりやすくなります。
5〜7歳:食べ物アート
やること:食べ物を画材にして顔や絵を作ります。ブルーベリーの目、バナナのにっこり口、ブロッコリーの髪の毛、にんじんスティックの腕。真上から撮ると、絵のように写ります。
育つ力:形や位置の感覚、左右対称、想像力。食べ物が「描く材料」にもなることを発見します。これは、動物やキャラクターを食べ物で表現する日本のキャラ弁と同じ発想です。アイデアは日本式弁当スタイルのおやつや動物型サンドイッチも参考にどうぞ。
7〜9歳:構図にチャレンジ
やること:「三分割法」を教えてみましょう。画面を縦横3つずつ、9マスに分けたと考えて、いちばん見せたいものを線が交わる点に置く方法です。スマホのカメラ設定で「グリッド」を表示させると、線が画面に出てわかりやすくなります。同じおやつを「真ん中」「三分割」「ぐっと近づいて」の3パターンで撮り、どれがいちばん好きか話し合います。
育つ力:見せ方を考える力、比べて考える力、「見る角度で印象が変わる」という気づき。絵や作文にも通じる力です。
9〜12歳:料理のストーリーを撮る
やること:材料を並べたところ、切る・混ぜる途中、焼いている様子、お皿に盛りつけた完成形。4〜6枚の写真で、ひとつのおやつができるまでの物語を作ります。
育つ力:順序立てて考える力、記録する力、料理に込められた手間への感謝。食材がどこから来て、どう変化するのかを知ることは、食育の大切なテーマのひとつです。
12歳以上:スタイルを研究する
やること:真上から撮る、斜め45度から撮る、暗めでしっとり、明るくふんわりなど、いろいろな撮り方を同じおやつで試します。無料の編集アプリで明るさやトリミングを調整して、仕上がりを比べてみましょう。
育つ力:美的な感覚、技術、そして「見せ方が印象を変える」という理解。大人を対象にした研究でも、料理の見た目の盛り付け方によって好まれ方が変わることが示されています(Reisfelt et al., 2009)。和食の写真が質感や季節感、器との調和を大切にしていることにも気づけるかもしれません。
偏食とフードフォトの関係
食べることとは別の場面で、食べ物を見たりさわったりすること。これが食べ物の受け入れを広げる助けになることは、偏食の支援に関わる専門家の間でよく知られています。フードフォトは、その関わりを遊びとして自然に作れる方法です。
食べ物に慣れていく5つのステップ
偏食の支援では、食べ物を口にするまでの道のりを、段階に分けて考えることがあります。いきなり「食べる」を目指さず、手前の段階を一つずつ楽しめるようにする考え方です。
- 同じ部屋にあっても平気:食べ物が少し離れたところにあっても、いやがらずに過ごせる
- 食卓にあっても平気:自分のお皿ではなく、食卓の上にあっても受け入れられる
- さわる・においをかぐ:食べ物にさわったり、においをかいだり、並べたりできる
- くちびるや舌にあててみる:少しだけ味見してみる
- かんで飲みこむ:食べられる
フードフォトは、1〜3の段階を「食べなさい」のプレッシャーなしに進められる活動です。写真のためにブロッコリーを並べている子は、ブロッコリーにさわり、じっくり観察し、楽しい時間を一緒に過ごしています。こうした「食べなくてもいい関わり」をくり返すことが、次の段階への土台になります。偏食との付き合い方は、偏食・食わず嫌いを乗り越える7つの戦略でもくわしく紹介しています。
「自分が作った」が、ひと口につながる
料理に参加した子は、自分で作ったものをよく食べる傾向があります(van der Horst et al., 2014)。並べる、飾る、撮るといった、火や包丁を使わない関わりでも、「これは自分の作品」という気持ちは育ちます。
きれいに並べて写真に撮ったおやつを前にすると、「自分の作品はどんな味なんだろう?」という好奇心がわいてくることがあります。そのときが、子どもが自分からひと口を選ぶチャンス。大人は「食べてみたら?」と急かさず、見守るくらいがちょうどいいのです。
和食の盛り付けに学ぶ、写真映えのコツ
日本の盛り付けの考え方は、フードフォトの教科書としても使えます。難しい芸術論ではなく、子どもでも試せる具体的なコツばかりです。
五色をそろえる
赤(トマト、鮭、いちご)、緑(枝豆、きゅうり、青菜)、黄(卵、かぼちゃ、とうもろこし)、白(ご飯、豆腐、大根)、黒(のり、ごま、しいたけ)。いつものごはんやおやつを撮って、「五色そろってるかな?」とチェックするだけで、楽しい観察ゲームになります。結果的に、いろいろな食材をとる工夫にもつながります。
高低をつける
和食では、奥を高く、手前を低く盛る「山水(さんすい)」の考え方があります。全部を平らに並べると、写真も食卓も単調に見えがち。高さのあるもの(立てたブロッコリーの木)、中くらいのもの(ご飯の小山)、平らなもの(薄切りきゅうり)をお皿に置いて、横から撮ってみましょう。
余白を残す
器いっぱいに盛らず、あえて余白を残すのも和食の盛り付けの特徴です。余白があると、主役の食べ物がすっきり引き立ちます。「全部埋めなくていいんだよ」と伝えることは、写真だけでなく、ものの見方そのものを育ててくれます。
季節をそえる
秋のもみじ、春の桜の花びら、夏の笹の葉。和食では季節の葉や花をそえて、旬を表現します。庭や公園で拾った葉っぱを1枚お皿のそばに置くだけで、写真に季節が生まれます(食べ物に直接ふれるものは、よく洗ったものを)。季節の移り変わりに目を向けるきっかけにもなります。
親が楽しく続けるためのコツ
上手より、楽しいを大切に
目指すのは「映える写真」ではなく、楽しく試してみること。「その色の組み合わせ、すてきだね」と、できあがりより工夫したところをほめましょう。大人から見てごちゃっとした写真でも、子どもにとっては大事な実験の結果です。
いつもの食材で撮る
写真のために特別な食べ物を買う必要はありません。切ったりんご、朝ごはんのヨーグルト、今夜の晩ごはんの材料。ふだんの食べ物の中に美しさを見つけることこそ、この遊びのいちばんの魅力です。
「撮影の日」を決める
「金曜日のおやつは撮影タイム」のように、週に1回の決まった時間を作ると、家族の楽しみな習慣になります。続けるうちに、構図のセンスや食べ物の名前がどんどん増えていくのがわかるはずです。
家族のフォトアルバムを作る
お気に入りの写真をプリントしたり、家族だけで見られるデジタルアルバムにまとめたり。見返すたびに、「これ撮ったあと、初めて食べたよね」という会話が生まれます。食べ物との楽しい思い出が目に見える形で残るのは、子どもにとって大きな自信になります。
料理と組み合わせる
料理の前に材料を、できあがったら完成形を撮る。こうすると、食べ物が変化していく様子がよくわかります。畑からお皿まで、食べ物の旅をたどることは、日本の食育が大切にしてきた考え方そのものです。日本の子どものおやつ文化を調べて撮ってみるのも楽しいテーマです。
スクリーンタイムとの付き合い方
「結局、画面を見る時間が増えるだけでは?」と気になる方もいるでしょう。でも、動画を見続けたりSNSを眺めたりする受け身の使い方と、カメラを道具として使って何かを作る使い方は、分けて考えることができます。フードフォトでは、子どもは本物の食べ物に手でふれ、どう並べるかを自分で決めています。主役は食べ物で、スマホは記録の道具です。
とはいえ、ルールがあるほうが続けやすくなります。
- 時間を決める:1回15〜30分で十分。時間に区切りがあるほうが、「完璧を目指して終わらない」を防げて、かえって集中できます。
- スマホはキッチンで使う:撮影が終わったら片づける。そのまま寝室やソファに持っていかない約束を。
- 手が先、カメラはあと:まず手で並べて、それから撮る。食べ物との関わりが主役です。
- 子ども自身のSNS投稿はしない:多くのSNSは利用を13歳以上としています。「いいね」を気にすると、じっくり見る楽しさが薄れてしまいます。作品は家族で見せ合いましょう。
ふだんのスクリーンタイムとおやつの関係については、スクリーンタイムとおやつの関係も参考にしてください。
家族のSNSに投稿するときの、子どものプライバシー
子どもが撮ったすてきな写真や、楽しそうに盛り付けている姿は、つい誰かに見せたくなりますよね。親のSNSに投稿するときは、次の点を確認してからにしましょう。
- 位置情報をオフに:スマホの写真には、撮影場所の位置情報が記録される設定になっていることがあります。カメラの設定で位置情報をオフにするか、投稿時に位置情報を削除しましょう。
- 写り込みをチェック:制服、名札、学校名入りの持ち物、ランドセル、自宅の外観、窓の外の景色、宛名のある郵便物。お皿の写真でも、背景から住んでいる場所や通っている学校がわかることがあります。
- 顔と名前は出さない:手元だけ、後ろ姿だけでも、作品の楽しさは十分伝わります。
- ほかの子が写っていたら載せない:友だちと一緒に作ったときは、その子の保護者の了解がない限り投稿しないのがマナーです。
- 公開範囲をしぼる:不特定多数に公開するより、家族や親しい人だけが見られる共有アルバムや、限定公開の設定を。
- リアルタイムで投稿しない:お出かけ先での写真は、帰宅してから投稿すると、今いる場所を知られずにすみます。
- 子どもに聞く:「この写真、おばあちゃんに送ってもいい?」と本人に確認する習慣は、子ども自身が自分の写真を大切にすることを学ぶ機会にもなります。
一度インターネットに出た写真は、完全に消すことが難しいもの。子どもが大きくなったときに「載せてほしくなかった」と思わないか、少し立ち止まって考えてみましょう。おやつ写真を撮る楽しさは、おやつフォトグラフィー — 子供が撮る食の写真術でも紹介しています。
タイプ別アドバイス
家の中だけでなく、公園のピクニックや畑の収穫体験にもスマホを持って出かけましょう。「青いもの・赤いものを3つずつ見つけて撮る」写真ラリーにすれば、歩き回りながら食べ物の色や形を観察できます。撮った野菜や果物は、帰ってからおやつにして食べ比べを。
五色そろえた「にじのお皿」や食べ物アートは、まさに得意分野。撮った写真をプリントして、タイトルと一言コメントをつけた「わが家のおやつ写真展」を冷蔵庫に貼り出してみましょう。季節ごとにテーマを変えると、1年分の作品集になります。
道具も準備もいりません。おやつを出したら、食べる前に1枚だけ撮る。それだけでも、手を止めて食べ物を眺める小さな習慣になります。撮った写真を夜に一緒に見返して、「今日のおやつ、どこがおいしそう?」と話す時間も、ゆったりした食育です。
よくある質問
フードフォトは何歳から楽しめますか?
3〜4歳ごろなら、子どもがお皿に食べ物を並べて大人が撮る、という形で始められます。5〜6歳になると、タブレットのシャッターを自分で押せる子が多くなります。7〜9歳では構図の考え方、10歳以上では光の向きや編集にも挑戦できます。年齢に合わせて内容を変え、遊びの延長として楽しみましょう。
フードフォトはスクリーンタイムになりますか?
動画を見続けるような受け身の使い方とは違い、本物の食べ物に手で触れながらカメラを道具として使う、能動的で創造的な活動です。とはいえ、1回15〜30分などと時間を決め、撮り終わったらスマホは片づけるルールにしておくと安心です。
偏食の子にも効果はありますか?
食べ物にさわる、においをかぐ、並べるといった、食べることを求められない場面での関わりは、新しい食べ物を受け入れるきっかけになると考えられています。写真を撮る活動は、こうした関わりを楽しく何度もくり返せるのが良いところです。「撮ったら食べようね」とは言わず、子どもが自分から味見したくなるのを待ちましょう。
どんな道具をそろえればいいですか?
スマホかタブレットと、窓から入る自然光があれば十分です。あると楽しいのは、背景用の白い画用紙、果物に水滴をつける霧吹き、色のきれいなお皿やランチョンマットなど。高価な機材はかえって子どもを緊張させてしまうので、家にあるもので始めましょう。
フードフォトと日本の食文化には、どんなつながりがありますか?
和食の盛り付けには、赤・黄・緑・白・黒の五色をそろえる、奥を高く手前を低く盛る、器に余白を残す、季節の葉や花をそえる、といった考え方があります。お弁当やキャラ弁も、食べられるアート。写真を撮りながら、こうした日本の食文化を自然に学べます。
子どもが撮った写真や、子どもが写った写真をSNSに載せてもいいですか?
投稿する前に、位置情報がつかない設定になっているか、制服や名札、学校名、自宅の外観や窓の外の景色が写っていないかを確認しましょう。子どもの顔や名前は出さず、公開範囲は家族や親しい人に限るのが安心です。ほかの子が写っている写真は、その子の保護者の了解なしに載せないこと。子ども本人にも「載せてもいい?」と聞く習慣をつけましょう。
参考文献
- Coulthard, H. & Sealy, A. (2017). "Play with your food! Sensory play is associated with tasting of fruits and vegetables in preschool children." Appetite, 113, 84-90.
- van der Horst, K., Ferrage, A. & Rytz, A. (2014). "Involving children in meal preparation. Effects on food intake." Appetite, 79, 18-24.
- Reisfelt H.H. et al. (2009). "Consumer preferences for visually presented meals." Journal of Sensory Studies. doi:10.1111/j.1745-459x.2008.00202.x
- 食育基本法(平成17年法律第63号)
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」