なぜ9〜12歳が、食べ物への考え方の分かれ目なのか
この年ごろの子どもには、いくつもの変化が一度にやってきます。考える力の面では、「野菜は体にいい」から一歩進んで「この栄養は脳のはたらきを支える」のような抽象的な話も理解できるようになります。人間関係の面では、親よりも友だちの影響が大きくなり始め、人からどう見られているかに敏感になります。そして体の面では、思春期の始まりとともに体つきが変わり始め、戸惑いや不安を感じることもあります。
子どものボディイメージ(自分の体についてのイメージ)に関する研究を整理した総説でも、体への不満は小学生の年代からすでに見られることが示されています(Smolak, 2004)。大人がよかれと思って使う言葉が、知らないうちに「食べることは良い・悪いで判断されるもの」というメッセージになり、その不満を強めてしまうこともあります。
気づかないうちに使っている「言葉のわな」
「それはジャンクフードだからダメ」「食べすぎると太るよ」「運動したからご褒美ね」「今日は食べすぎちゃった、罪悪感」——どれも日常でつい口にしがちな言葉です。でもこうした言葉には、食べ物に「良い・悪い」の価値をつけ、ひいては「それを食べる自分も良い・悪いで判断される」という考え方が含まれています。
日本の食育は、食べ物を「意志の強さを試すもの」ではなく、つながりや文化、感謝の対象として伝えてきました。「いただきます」「ごちそうさま」のあいさつ、旬の食材を味わうこと、給食で食べ物がどこから来るのかを学ぶこと。こうした積み重ねは、食べ物を怖がらずに楽しむ土台になります。家庭でできる食育は日本の食育とは?でも紹介しています。
「何の食べ物か」より「何をしてくれるか」で話す
この年ごろの子どもにいちばん届きやすいのは、食べ物を「良い・悪い」で分けるのではなく、その食べ物が自分の体に何をしてくれるかで話すことです。走りきる元気、授業に集中する力、ぐっすり眠ること、気分が安定すること——子ども自身が大事にしていることと結びつけると、自然と興味をもってくれます。
声かけの言いかえ例
| つい言いがちな言葉 | 言いかえるなら | どうしてよいか |
|---|---|---|
| 「それはお菓子だからダメ」 | 「それはすぐ元気が出るね。長持ちするものも一緒に食べてみる?」 | 責めずに、組み合わせ方を伝えられる |
| 「もっと野菜を食べなさい」 | 「お皿に何色を足したい?」 | 自分で選ぶ楽しさがある |
| 「砂糖は体に悪いよ」 | 「甘いものはすぐ元気が出るけど、すぐ切れちゃう。サッカーの前は、卵やチーズも一緒だと長持ちするよ」 | 良い・悪いではなく、はたらきで説明できる |
| 「もう食べすぎ」 | 「おなかの感じはどう?まだすいてる?ちょうどいい?」 | 自分の体の感覚に気づく練習になる |
| 「夕ごはん前に食べちゃダメ」 | 「あと30分で夕ごはんだから、おなかいっぱいにならない小さなおやつにしようか」 | 空腹のサインを大切にしながら、時間を調整できる |
「この食べ物、何してくれる?」ゲーム
家族で食卓を囲むとき、ときどき「この鶏肉のたんぱく質って、筋肉に何をしてくれるんだろうね」「小松菜の鉄は、脳に酸素を運ぶのを手伝ってるんだって」とつぶやいてみましょう。クイズのように、子どもが答える番をつくっても楽しめます。ポイントは、お説教にしないこと。くり返すうちに、子どもは「食べ物は体をつくる材料」という感覚を自然に身につけていきます。
体の変化について、子どもに伝えたいこと
思春期が始まる時期は個人差がとても大きく、女の子は小学校高学年ごろから、男の子はそれより少し遅れて始まることが多いといわれます。身長がぐんとのびる、体つきが丸みをおびる、肌の様子が変わる——それまで気にしていなかった自分の体が、急に「知らない体」のように感じられることもあります。体重が増えるのも、この時期の自然な成長の一部です。
子どもに届けたいメッセージ
- 体が変わるのは、大人の体に向けて準備をしているから。成長に必要な材料を、体がたくわえている途中です
- 変わるタイミングは、一人ひとり違う。早い子もゆっくりな子もいて、どちらも普通のこと
- 今の体つきが、ずっと続くわけではない。体は大人になってからもしばらく変わり続けます
- 成長期におなかがすくのは、体が「材料をもっと送って」と言っているサイン。しっかり食べていい時期です
- 体はみんな違っていい。身長や髪の質がちがうように、体の形もちがって当たり前
急に食欲が増えたときの向き合い方は成長期の急激な食欲増加、思春期前の栄養は思春期前の栄養ガイドにまとめています。
日本の学校には、体の変化を学ぶ場がある
日本の小学校では、4年生ごろの保健の授業で「体の発育・発達」を学びます。体が大人に近づいていくことを、誰にでも起こる自然な変化として知る機会です。また、学校の健康診断で測る身長や体重の結果は、一人ひとりに個別に知らされます。体のことで気になることがあるとき、保健室の先生(養護教諭)は、子どもにとっても保護者にとっても身近な相談相手です。家庭でも「保健で習った?」と話題にしてみると、話のきっかけになります。
SNS・友だちと、体のイメージ
小学生でも、自分のスマートフォンやタブレット、家族の端末を通して動画やSNSにふれる機会は増えています。SNSの利用と体への不満の関係は、多くの研究で指摘されてきました。加工された写真や、選ばれた一場面だけが流れてくる世界を見続けると、自分の体と比べてしまいやすくなります。
子どもが目にしている食べ物の動画
食べ物に関する動画には、極端に少ない量を「1日の食事」として見せるものや、反対に大量の食べ物を一気に食べる企画ものなど、ふだんの食事とはかけ離れた内容も多くあります。大人なら「これは演出」と気づけても、この年ごろの子どもには見分けるのが難しいことがあります。
メディアを読み解く力を育てる
- ときどき一緒に見る:「この人、毎日こんなふうに食べてると思う?」「映っていないところは何だろう?」と問いかけてみる
- 加工や演出の話をする:料理の写真も人の写真も、照明やフィルターで見え方が大きく変わることを、実際にスマホで撮り比べてみるとよくわかります
- 禁止より、選び方を一緒に:料理のアカウント、食べ物の科学を紹介する動画、体づくりについて話すスポーツ選手など、見た目以外に焦点を当てた発信を一緒に探す
- 食文化の多様さを楽しむ:国や地域によって食べ方がちがうことは、ランキングではなく「おもしろさ」として話す
友だちの言葉にどう返す?
学校や習い事、友だちの家など、親の目の届かないところで食べる機会も増えていきます。お弁当の中身をからかわれたり、「それ食べるの?」と言われたりすることもあるかもしれません。「練習の前はしっかり食べたいんだ」「これ好きなんだよね」のように、さらっと返せるひと言を家で一緒に考えておくと、その場で使える心強い道具になります。中学生になってからの体型意識と補食については中学生の思春期おやつ戦略も参考にしてください。
数字ではなく「食べる力」を育てる
この年ごろの子どもに、カロリーや栄養素の数字を細かく数えさせたり、食べたものを毎日記録させたりすることは、子どもの栄養の専門家の間でもすすめられていません。数字にとらわれるほど、食べることが「楽しみ」から「管理」に変わってしまうからです。代わりに、一生使える「食べる力」を育てていきましょう。
主食・主菜・副菜で考える
数字の代わりに使いやすいのが、日本の食卓になじみのある「主食・主菜・副菜」の考え方です。ご飯やパンなどのエネルギー源、肉・魚・卵・大豆製品などのたんぱく質源、野菜やきのこ、海藻などの色のある食材。この3つがそろっているかを見るだけで、計量も計算もいらずにバランスがとりやすくなります。しっかりめのおやつにも同じ考え方が使えます。
この年ごろで身につけたい「食べる力」
- 原材料名を読む:栄養成分の数字ではなく、「これは何からできているか」を見てみる
- かんたんな料理:卵焼き、おにぎり、みそ汁、サンドイッチ、スムージー。自分で作れることは自信につながります。包丁の練習は子供の包丁スキルを参考に
- 空腹と満腹に気づく:「ちゃんと食べた?」より「おなかの感じはどう?」のほうが、自分の体と向き合う練習になります
- のどの渇きと空腹を区別する:のどが渇いているのにおなかがすいたと感じることも。水筒をいつも手元に置いておくのがシンプルな工夫です
- おやつを自分で組み立てる:「おにぎり+麦茶」「ヨーグルト+果物」のように、言われなくてもバランスのよいおやつを組み立てられるかな?
小学生のおやつの選び方は小学生(6〜12歳)のおやつ完全ガイドでくわしく紹介しています。
学校給食という「体で覚える」食育
日本の小学校では、子どもたちが当番で給食を配り、教室でみんなで食べ、片づけまで行います。献立は栄養士が考えた、旬や行事を取り入れたものですが、子どもがカロリーの数字を気にしながら食べることはありません。いろいろな食べ物を、ほどよい量で、みんなと一緒においしく食べる。その経験そのものが、数字やルールに頼らない食べる力を育てています。くわしくは日本の学校給食の秘密へ。
気をつけたいサインと相談先
この年ごろの子どもが、ときどき自分の体に不満をもらしたり、好き嫌いが出たりするのは、成長の中でよくあることです。ただ、次のような様子が何週間も続くときは、専門家に相談することを考えましょう。
相談を考えたいサイン
- 前は好きだった食べ物を、不安そうに食べなくなった
- 特定の食べ物を食べたあと、強い罪悪感や恥ずかしさを口にする
- 励ましても、自分の体についての否定的な言葉が減らない
- 医学的な理由がないのに、特定の食品群をまるごと避けるなど、食事のルールにこだわる
- 楽しむためではなく、やめられないように見える運動
- 誕生日会や給食など、人と一緒に食べる場面を避けるようになった
- 体重が短い期間で大きく変わった
どこに相談すればいい?
まずは、かかりつけの小児科や、学校の保健室の先生(養護教諭)、スクールカウンセラーに話してみてください。必要に応じて、子どもの心や栄養にくわしい専門家につないでもらえます。摂食障害については、国立精神・神経医療研究センターに設置されている「摂食障害全国支援センター」が情報や相談先を案内しているほか、各地の摂食障害支援拠点病院や精神保健福祉センターでも相談できます。治療には、家族が一緒に回復を支える方法もあります。早く相談するほど回復しやすいとされているので、「もう少し様子を見よう」と一人で抱え込まないことが大切です。
食べることが楽しくなる家庭の環境づくり
子どもの食べ物との付き合い方にいちばん影響するのは、大人が何を言うかよりも、大人が何をしているかです。家の食卓の雰囲気は、どんな会話よりも雄弁に価値観を伝えます。
今日からできる工夫
- いろいろな食べ物を、見える場所に:テーブルの上の果物かご、冷蔵庫の目の高さに切った野菜、おやつのかごには栄養豊富なものと、ときどき楽しむお菓子の両方を。特定の食べ物を完全に禁止すると、かえってそれへの執着が強まることがあります。置き場所の工夫はナッジ理論の食育活用も参考に
- できるときは一緒に食べる:毎日でなくても、週に何回か家族で食卓を囲む時間は、食事の内容にも、親子の関係にもよい影響があるとされています。日本の「団らん」の文化を大切に
- 献立づくりに参加してもらう:メニューを決める、レシピを選ぶ、スーパーで材料を選ぶ、一緒に作る。自分が関わった料理は、食べる楽しみも大きくなります
- 食べ物をご褒美や罰に使わない:「野菜を食べたらデザート」は、野菜は嫌なもの、デザートはご褒美、と教えてしまいます。デザートは食事の一部として、条件をつけずに適量を。強制がもたらす影響は「食べなさい!」が子どもの感情食いを生むにまとめています
- 好奇心と喜びをもって食べ物を語る:「この桃、すごくおいしい!食べてみて」のひと言は、どんな栄養の話よりも力があります
親と子の「役割分担」
栄養士のエリン・サッターが提唱した「食事の役割分担」は、わかりやすい考え方です。何を、いつ、どこで出すかは親が決める。食べるかどうか、どれだけ食べるかは子どもが決める。この線引きは、自立したい年ごろの子どもに自分で決める余地を残しながら、栄養のある食事にふれる機会をきちんと確保するものです。子どもが自分の空腹や満腹を手がかりに、楽しく食べられる力(イーティング・コンピテンス)を育てる考え方として整理されています(Satter, 2007)。親が子どもの側の決定まで管理しようとすると、反発や衝突が生まれやすくなります。偏食が気になるときの関わり方は偏食・食わず嫌いを乗り越える7つの戦略もどうぞ。
不安ではなく、自信を育てる会話
この年ごろの子どもと食べ物の話をする目的は、いつも完璧な選択ができる子に育てることではありません。食べ物の前でリラックスして、好奇心をもって、自分の体を大切にできる10代、そして大人になってもらうことです。
使いやすい会話のきっかけ
- 「今日の試合、すごく動けてたね。お昼に何を食べたのがよかったんだろう?」
- 「学校でたくさん頭を使ってるね。考えるための燃料になるおやつ、一緒に選ぼうか」
- 「今日の給食、何がおいしかった?今度うちでも作ってみる?」
- 「体が必要としているものは人によってちがうよね。今日はどんなものが食べたい気分?」
- 「週末に新しいレシピを作るんだけど、助手をお願いできる?」
長い目で見る
目指しているのは、今日の1食やこのおやつではなく、これから先の10年です。食べ物とのおだやかで前向きなやりとりの一つひとつが、子どもの中に自信をためていきます。そのたくわえは、中学・高校、そして大人になってからの、もっと複雑な食の環境を乗り切る力になります。自分の体は信頼していい。食べ物は元気のもとで、楽しみでもある。1回の食事で自分の価値は決まらない——そう感じられる子どもは、一生自分を大切に養っていける力をもっています。
よくある質問
何歳ごろから、子どもと栄養の話をすればいいですか?
食べ物の話は幼児期から年齢に合わせてできますが、9〜12歳ごろになると、食べ物ごとに体の中でのはたらきがちがうことも理解できるようになり、話の幅が広がります。体重や見た目ではなく、走る元気、授業に集中する力、骨の成長など、食べ物が体に何をしてくれるかを中心に話しましょう。改まって座らせて話すより、ふだんの食卓や料理の時間に少しずつ話すほうが届きやすくなります。
食べ物との付き合い方が心配なのは、どんなときですか?
食べ物を良い・悪いで強く分けて不安そうにする、前は好きだったものを食べなくなる、食べたあとに強い罪悪感を口にする、自分や他人の体型についての話が多い、わざと食事を抜く、といった様子が何週間も続くときは注意が必要です。一度だけなら心配しすぎなくて大丈夫ですが、続くようなら、かかりつけの小児科や保健室の先生に相談しましょう。摂食障害については、摂食障害全国支援センターが情報や相談先を案内しています。
子どもに「やせたい」と言われたら、どう答えればいいですか?
まずは気持ちを否定せずに聞きましょう。「そう感じているんだね」と受け止めたうえで、「今は体が大人に向けて大きく変わる時期で、それは自然なこと」「体重より、体が元気に動くことを大切にしよう」と伝えてみてください。体型についてのコメントや、食べる量を減らす方法の話は避けます。気持ちが強く続く、食事を減らす様子があるといったときは、小児科や学校の保健室の先生に相談しましょう。
SNSは子どもの体のイメージに影響しますか?
SNSの利用と体への不満の関係は、多くの研究で指摘されています。加工された写真や、極端な食事を見せる動画を見続けると、自分と比べてしまいやすくなります。一律に禁止するより、ときどき一緒に見て「これは毎日の食事だと思う?」と話す、加工や演出のしくみを知る、料理や食の科学、スポーツなど見た目以外に焦点を当てた発信を一緒に探す、といった関わり方が役立ちます。
親として、どんなお手本を見せればいいですか?
子どもは、親の言葉よりも親の食べ方をよく見てまねします。「これ食べたら太る」「食べすぎたから運動しなきゃ」など、自分の体や食べたものを否定する言葉は、子どもの前では控えましょう。いろいろな食べ物をおいしそうに食べること、食べ物を良い・悪いで分けないこと、できるときは家族で食卓を囲むことが、何よりのお手本になります。新しい食べ物には不安ではなく好奇心を見せてあげてください。
親戚や周りの大人が、子どもの体型について言ってしまうときは?
「大きくなったね」「ちょっとふっくらした?」など、悪気のないひと言でも、この年ごろの子どもは深く気にすることがあります。可能なら事前に「最近体のことを気にしているから、体型の話は控えてもらえると助かる」と伝えておきましょう。その場では「成長期だからね、よく食べてよく動いてるよ」と話題を変え、あとで子どもに「気にしなくて大丈夫、体は成長している途中だよ」と声をかけてあげてください。
参考文献
- Satter, E. (2007). "Eating competence: Definition and evidence for the Satter Eating Competence Model." Journal of Nutrition Education and Behavior, 39(5), S142–S153.
- Smolak L. (2004). "Body image in children and adolescents: where do we go from here?" Body Image, 1(1), 15–28.
- 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」
- 文部科学省「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 体育編」
タイプ別アドバイス
体を動かすのが好きな子には、「どんな体型か」ではなく「何ができるようになったか」を話題にしましょう。速く走れた、長く泳げた、試合で最後まで動けた——その裏にある食事やおやつの話をすると、食べることが自然と前向きなものになります。練習後のおにぎりや牛乳は「がんばった体への燃料」です。
料理の写真を自分で撮って、光や角度でどれだけ見え方が変わるか試してみましょう。SNSの写真が「演出されたもの」だと体験でわかります。週末に好きなおやつをデザインして作り、名前をつけてレシピカードにするのも、食べることを楽しむ気持ちを育てる工夫です。
体のことで不安そうなときは、解決しようと急がず、まずは「そう感じるんだね」と聞く時間をとりましょう。温かい飲み物を一緒に飲みながら、学校のことや好きなことをゆっくり話す。そんな安心できる食卓の時間の積み重ねが、自分の体を信頼する力につながります。