食事の科学

断食は子供には不向き — 成長期に必要な栄養の科学

「お父さんが最近、朝ごはんを抜いてる」「SNSで16時間食べないのが流行ってるらしい」——大人の間で広がる間欠的断食(インターミッテント・ファスティング)は、子どもの目や耳にも自然と入ってきます。中学生・高校生の中には、興味をもって自己流で試してみる子もいるかもしれません。でも、体が毎日つくられている途中の子どもと、成長を終えた大人とでは、必要なものがまったく違います。この記事では、なぜ断食が成長期の子どもに向かないのかをわかりやすく整理し、代わりに大切にしたい「3食+おやつ」のリズムと、子どもと話すときのヒントを紹介します。

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間欠的断食とは?なぜ話題になっているの?

間欠的断食は、「食べる時間」と「食べない時間」を決めて交互にくり返す食べ方です。1日のうち食べる時間を8時間ほどにしぼり、残りの時間は何も食べない方法や、週のうち数日だけ食べる量を大きく減らす方法、1日1食にする方法などがあります。

大人を対象にした研究では、インスリンの効きやすさなど代謝面での変化が報告されていて、その知見をまとめた総説もあります(de Cabo & Mattson, 2019; Mattson et al., 2017)。こうした話題が、テレビや本、SNSを通じて広まりました。

ただし、ここで見落とせないのは、これらの研究のほとんどが大人を対象にしているということです。体が成長している途中の子どもに、大人の結果をそのまま当てはめることはできません。

子どもは「小さな大人」ではない

エネルギーをたくさん使う、成長中の脳

脳は、体の中でもとくに多くのエネルギーを使う臓器です。子どもの脳は体に対して大きく、発達もさかんなため、大人以上にエネルギーを必要とします。脳の発達がもっとも活発な幼児期には、体が安静時に使うエネルギーの半分以上を脳が使っていると推定されています(Kuzawa et al., 2014)。

脳のおもなエネルギー源はブドウ糖です。食事の間が長くあくと、集中力や気持ちのコントロールなど、学校生活に欠かせない働きから先に影響を受けやすくなります。「なんだかぼーっとしている」「すぐ怒る」が、実はおなかがすいているサインだった、ということも珍しくありません。血糖値と子どもの行動の関係は血糖値スパイクが子どもの行動・集中力に与える影響と対策でもくわしく紹介しています。

骨と体をつくる「今」

子ども時代から10代は、一生の骨の土台をつくる時期です。骨の材料になるカルシウムやたんぱく質、ビタミンDなどを毎日コンスタントにとることが欠かせません。厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2025年版)」でも、カルシウムの推奨量は12〜14歳でもっとも多く設定されています。食べる時間をしぼると、1日に食べられる量そのものが減りやすく、必要な栄養をとりきれなくなるおそれがあります。骨とおやつの関係はカルシウムと骨成長も参考にしてください。

妊娠期から幼児期までの栄養がその後の長い健康に関わることも、多くの研究で示されています(Koletzko et al., 2019)。成長期の食事は、「今日のエネルギー」だけでなく、将来の体の土台づくりでもあります。

思春期のホルモンの変化

思春期の体は、ホルモンのはたらきで大きく変わっていきます。この変化は、体に十分なエネルギーがあることを前提に進みます。エネルギーが足りない状態が続くと、女の子では月経が遅れたり不順になったりすることがあり、スポーツの分野では「相対的エネルギー不足」として注意が呼びかけられています。男の子でも、筋肉や骨の発達に影響するおそれがあります。思春期の栄養については思春期の女の子の栄養、思春期の男の子の栄養にまとめています。

エネルギーの「たくわえ」が少ない

子どもは体が小さい分、肝臓にためておけるエネルギー(グリコーゲン)も少なく、食事の間が長くあくと大人より早く血糖値が下がりやすくなります。イライラ、集中できない、頭痛、だるさ——こうした様子が「わがまま」ではなく「エネルギー切れ」のこともあるのです。

心と食べることの関係にも注意を

断食のような「食べない時間をつくるルール」には、体への影響に加えて、もう一つ気をつけたい点があります。それは、食べ物や体との付き合い方がまだ育っている途中の10代にとって、おなかがすいたというサインを無視することに慣れてしまうおそれがあることです。

若い世代では、こうした食べ方と摂食障害のリスクとの関連を指摘する報告もあります。摂食障害は思春期に始まることが多く、早く気づいて専門家につながるほど回復しやすいとされています。食事のルールにとらわれている、体型や体重を強く気にしている、家族と食べるのを避けるようになった——そんな様子が続くときは、一人で抱えず相談してください。

相談先の例

まずはかかりつけの小児科や、学校の保健室の先生(養護教諭)、スクールカウンセラーに話してみましょう。専門的な情報や相談先は、国立精神・神経医療研究センターに設置されている「摂食障害全国支援センター」が発信しているほか、各地の摂食障害支援拠点病院や精神保健福祉センターでも相談できます。

成長期に本当に必要なのは「3食+おやつ」のリズム

「いつ食べないか」を決めるより、「何をどんなリズムで食べるか」に目を向けるほうが、子どもの体にはずっと役立ちます。

規則正しく食べることのよさ

  • 血糖値が安定しやすく、勉強や運動に集中しやすい
  • 1日のうちに何回も、必要な栄養をとるチャンスがある
  • おなかがすきすぎないので、一度にたくさん食べすぎたり、甘いものに手が伸びすぎたりしにくい
  • 「おなかがすいた」「おなかいっぱい」という体のサインに気づく力が育つ

日本の食育が大切にしてきたこと

日本では、食育基本法のもとで、子どもの食育が家庭・学校・地域で進められてきました。国の食生活指針でも、1日の食事のリズムから健やかな生活リズムをつくることや、朝食で1日を始めることが呼びかけられています。食べるものを減らすのではなく、毎日のリズムを整えることに軸を置いているのが特徴です。

  • 3食をきちんと:とくに朝ごはんは、午前中の学校生活を支える大切な食事とされています
  • おやつは「4回目の食事」:体の小さな子どもにとって、おやつは3食で足りない分を補う「補食」。おにぎり、ふかしいも、果物、牛乳などが昔からの定番です
  • 一汁三菜の考え方:主食・汁物・主菜・副菜をそろえることで、数字を数えなくても自然と栄養のバランスがとりやすくなります
  • 給食:栄養士が考えた献立をみんなで食べる体験そのものが、「いろいろな食べ物を、ほどよい量で」を体で覚える機会になっています

くわしくは日本の食育とは?、3食とおやつの考え方は子供に断続的な食事は適切?— 3食+おやつの科学的根拠でも紹介しています。

1日の食事リズムの例(小学生〜中学生)

食事・おやつタイミングの目安ポイント例
朝ごはん起きてから1時間以内主食+たんぱく質で午前中のエネルギーをご飯・みそ汁・卵焼き、トースト・牛乳・果物
昼ごはんお昼給食やお弁当でしっかり給食、主食・主菜・副菜のそろったお弁当
おやつ(補食)放課後・15〜16時ごろ夕食までのエネルギーをつなぐおにぎり、ふかしいも、ヨーグルト、果物、枝豆
部活・塾の前の補食出かける前夕食が遅くなる日は軽く1回小さなおにぎり、バナナ、チーズ
夕ごはん夜できれば家族と一緒に主食・汁物・主菜・副菜
夜のおやつ(必要なら)夕食が早かった日軽く、甘さ控えめにホットミルク、バナナ

おやつの量の目安は年齢や活動量で変わります。子どものおやつ量ガイドも参考にしてください。急に食欲が増える時期の対応は成長期の急激な食欲増加にまとめています。

朝ごはんを食べない子は?

子どもや10代でいちばんよく見られる「意図しない断食」が、朝ごはん抜きです。朝食習慣と栄養状態、学業の関係を調べた研究をまとめた総説では、朝食をとる子どもは1日の栄養摂取がより充実していて、学業面でもよい傾向がみられたと報告されています(Rampersaud et al., 2005)。国の第4次食育推進基本計画でも、朝食を欠食する子どもをなくすことが目標に掲げられています。

とはいえ、食欲がない子に無理やりたくさん食べさせるのは逆効果。目標は「完璧な朝食」ではなく、「何か少しでもおなかに入れて出かけること」です。

  • 具を混ぜ込んだ小さなおにぎり(手に持って食べられる)
  • 飲むヨーグルトや、バナナと牛乳のスムージー
  • みそ汁1杯(具だくさんにすれば野菜とたんぱく質も)
  • 前の晩に作っておいた蒸しパンやおからマフィン
  • チーズとミニトマト(小さい子はミニトマトを4等分に)

朝が苦手な子へのアイデアは朝の元気おやつ、朝食と脳の関係は朝食と子どもの脳パフォーマンスで紹介しています。

Smart Treatsの考え方:引き算より、足し算

子どもの食事で大切にしたいのは、「何を減らすか」「いつ食べるのをやめるか」ではなく、「何を足せるか」です。栄養豊富なおやつを一品、新しい食材をひとつ、家族で食べる食卓を週にもう一回、キッチンでの楽しい時間をもう少し。毎日のリズムの中でおいしく、楽しく食べることが、一生の体の土台になります。もっと楽しく、もっと賢く。断食はいりません。

子どもに「断食をやってみたい」と言われたら

頭ごなしに否定するより、食べ物と体について話すよい機会ととらえてみましょう。

  1. まずは理由を聞く:なぜ興味をもったのかを聞いてみましょう。SNSで見た、友だちがやっている、家族のまね、体型や体重が気になっている——きっかけによって、話すべきことが変わります
  2. 否定せずに受け止める:「そういうやり方をしている大人もいるよね。でも、成長中の体だと話が違うんだ」と、興味そのものは否定しない
  3. 体のしくみをかんたんに伝える:「今のあなたの体は、骨をのばして、脳を育てて、筋肉をつくっている最中。そのためには、長いドライブで何度も給油するみたいに、1日を通して燃料が必要なんだよ」
  4. 前向きな提案に切り替える:「元気に、強くなりたいなら、いつ食べるかより何を食べるかを工夫してみない?朝ごはんにたんぱく質を足すとか、おやつを一緒に考えるとか」
  5. 気になるサインがあれば相談する:断食へのこだわりが続く、体型への不安が強い、隠れて食べたり食事を避けたりする様子があるときは、小児科や学校の保健室の先生に相談しましょう

体についての話し方は子供のボディイメージと食事も参考になります。

栄養が足りていないかも?のサイン

意図した断食でも、忙しさによる食事抜きでも、エネルギーや栄養が足りない状態は、行動の問題と見まちがえられやすい形で表れることがあります。

  • 集中できない:エネルギー不足の最初のサインになりやすいもの
  • イライラ・気分の波:おなかがすいて怒りっぽくなるのは、気のせいではありません
  • だるそう・元気がない:「やる気がない」のではなく、燃料が足りていないだけのことも
  • かぜをひきやすい:体を守るしくみにも、たんぱく質やビタミン・ミネラルが必要です
  • 身長ののびがゆるやか:学校の健康診断の身長・体重を成長曲線に記録していくと、変化に気づきやすくなります
  • 眠りが浅い:空腹のまま寝ると、寝つきが悪くなることがあります

気になる様子が続くときは、自己判断せずにかかりつけの小児科に相談してください。

よくある質問

10代なら、断食をしても大丈夫ですか?

おすすめしません。10代は骨や筋肉、脳がまだ発達している途中で、思春期のホルモンの変化も進んでいる時期です。間欠的断食の研究のほとんどは大人を対象にしたもので、成長期の子どもに当てはめられる根拠はありません。食べる時間をしぼると必要な栄養をとりきれなくなりやすく、空腹のサインを無視する習慣が、食べ物や体との付き合い方に影響するおそれもあります。

食事の間が長くあくと、子どもの体には何が起きますか?

子どもは体の中にためておけるエネルギーが大人より少ないため、食事の間が長くあくと早く血糖値が下がりやすくなります。その結果、イライラ、集中できない、だるい、頭が痛いといった様子が出やすくなります。成長中の脳はとくに多くのエネルギーを使うため、学校での集中力や気持ちのコントロールに影響が出ることもあります。

朝ごはんを食べないのも、断食と同じですか?

たまたま食欲がなくて食べない日があるのと、意図的に食べないルールを決めるのとは違います。ただ、朝ごはんを抜く習慣が続くと、1日の栄養が足りなくなりやすく、午前中の集中にも影響しやすくなります。無理にたくさん食べさせるより、小さなおにぎり、飲むヨーグルト、みそ汁1杯など、少しでもおなかに入れて出かけられる工夫から始めてみましょう。

子どもは1日に何回食べるのがいいですか?

基本は朝・昼・夕の3食に、おやつ(補食)を組み合わせる形です。幼児は午前と午後に1回ずつ、小学生以降は放課後に1回が目安で、部活や塾で夕食が遅くなる日は出かける前に軽い補食を足すと安心です。日本の食育では、おやつは3食で足りない分を補う「4回目の食事」と考えられてきました。量は年齢や活動量に合わせて調整しましょう。

子どもが断食をやってみたいと言ったら、どうすればいいですか?

まずはなぜ興味をもったのかを聞き、頭ごなしに否定せずに受け止めましょう。そのうえで、成長中の体には1日を通してエネルギーと栄養が必要なことをわかりやすく伝え、「いつ食べるか」より「何を食べるか」を一緒に工夫する方向に話を切り替えます。断食へのこだわりが続く、体型への不安が強いといった様子があれば、小児科や学校の保健室の先生に相談してください。

親が断食をしているとき、子どもの前で気をつけることはありますか?

大人の食べ方は大人の判断ですが、子どもは親の食べ方をよく見ています。「食べないのが偉い」「食べたら悪い」と受け取られないよう、子どもの前で食事を抜く理由を体型の話と結びつけて話すのは避けましょう。できるだけ家族の食卓には一緒に座り、子どもには3食とおやつをきちんと用意すること、そして「あなたの体には今、たくさんの栄養が必要」と伝えることが大切です。

参考文献

タイプ別アドバイス

🏃 アクティブ派

部活やスポーツをがんばる子ほど、食事の間をあけないことが大切です。朝練の日は家を出る前におにぎりを1つ、放課後は練習前にバナナやチーズを。「食べる時間を減らす」のではなく「食べるタイミングを増やす」発想で、練習の質と成長の両方を支えましょう。

🎨 クリエイティブ派

「1日の食事リズム表」を子どもと一緒に作ってみましょう。朝・昼・おやつ・夕のマスに、食べたいメニューを絵や写真で描き込んでいくと、3食+おやつの流れが目で見てわかります。週末に「今週いちばんおいしかったおやつ」を選ぶのも楽しい工夫です。

😌 リラックス派

流行の食べ方に心が揺れるのは、大人も子どもも同じです。「うちはうち」と構えすぎず、決まった時間に食卓を囲み、温かいみそ汁やおやつを一緒に味わう時間を大切に。安心して食べられる毎日のリズムが、子どもの体と心のいちばんの土台になります。

この記事は2026年10月時点の情報に基づいています。個別の食事アドバイスについてはかかりつけの小児科医にご相談ください。

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